
「いつも、私にだけ暴力をふるうんです・・・」
母親にだけ感情をぶつける――そんな家庭内暴力のかたちは、決して珍しくありません。
外ではおとなしく、学校でもトラブルはなく「良い子」。
でも、家に帰ると豹変し、母親に怒鳴り、物を壊し、時には手を上げる・・・
父親や兄弟には一切そんな様子は見せず、攻撃対象は“母親だけ”。
そんな矛盾したように見える行動の裏にあるのは、
強すぎる依存と、逃げ場のない感情が原因です。
今回は、母親にだけ暴力をふるう子どもたちの複雑な深層心理について解説します。
1.「甘え」と「攻撃」の境界線が消えるとき
子どもは本能的に、「お母さんは自分を受け入れてくれる存在」だと信じています。
その安心感があるからこそ、外では我慢してきたストレスを、お母さんにだけぶつけてしまう。
お母さんにだけぶつける暴力は、決して意識的な「わがまま」ではなく、
自分の中で処理できない怒りや不安を、“安全な相手にだけ”放出している状態です。
しかし、そうした放出が繰り返されるうちに、
「甘え」と「攻撃」の境目が曖昧になり、暴力が常態化していくのです。
2.母の「頑張り」が子を追い詰めることもある
私たちがこれまで出会ってきた多くのケースで、
母親はみなさん、ものすごく頑張っています。
子どもの未来のために、傷ついても、叩かれても、耐えようとする。
「私が変わればこの子も変わるはず」と信じて・・・・
でも、時にその“無理をしてでも愛そうとする姿勢”が、
子どもにとっては「何をしても許してくれる人」として映ってしまう。
子ども自身も苦しいのに、それをうまく表現できず、
その葛藤と怒りを「お母さん」にだけぶつけてしまう・・・
それが“母子密着型の暴力”の典型パターンです。
3.まずは「離れること」で関係を守る
このタイプの暴力において最も重要なのは、
一度、親子の距離を取ることです。
これは「見捨てる」ことではありません。
むしろ、親子関係を守るために必要な ”治療としての分離” です。
この治療としての分離には、ただ親と子の距離を取るだけでは、逆効果になってしまいます。
そのため、私たちLeadでは、以下のようなステップを提案しています。
1. 子どもを一度家庭から切り離し、寮での生活リズムを整える
2. 感情の扱い方、自己表現の方法を、他者との関わりの中で学んでいく
3. 母親自身も「自分を責めすぎない」時間を持つ
4. 双方が落ち着いた段階で、再び“会い直す”プロセスを整える
これは、ただの「別居」ではありません。
関係を再構築するための “回復の時間” です。
4.回復のきっかけは、“責任を分けること”から始まる
「私が全部受け止めなくちゃ」
「私の育て方が悪かったんじゃないか」
そう思い詰めてきたお母さんに、私たちはこうお伝えします。
「もう、ひとりで背負わなくていいんです」
暴力というかたちでしか感情を表現できなかった子ども。
それを必死に抱えようとしたお母さん。
どちらも、“悪い人”なんかじゃない。
ただ、少しだけ近すぎて、傷つけ合ってしまっただけ。
その距離を一度見直し、お互いに「自分の時間」を持つことが、再生のきっかけになるのです。
5.私たちが何より大切にしているのは、「再会の質」
Leadで生活を始めたある中学生の男の子。
母親にだけ暴言を吐き、暴れる日々を繰り返していた彼が、3ヶ月目にふとこう言いました。
「お母さんって、俺が暴れてもずっとそばにいたんだよな。今思えば、めちゃくちゃだったのは俺の方だと思う」
このように、“離れたからこそ、気づけること”があります。
そして、その気づきが、初めて「親子としてやり直したい」という気持ちに火をつけるのです。
最後に
暴力のある母子関係において、
最も大きな誤解は、「離れることは失敗だ」という 思い込み です。
でも、本当に大切なのは
「壊れない距離感」をつくること。
それがあってこそ、安心して再び“親と子”として向き合える日が来ます。
Leadは、そのための環境を整えています。
「もう無理かもしれない」
そう思ったその時こそ、親子の“再出発”の始まりです。